散歩の詩

むかし西の町に暮らしたことがあって、染め物のお手伝いをさせてもらっていました。ある日、たくさんある色の中から好きな糸を引きそろえて玉巻きをする仕事がありました。四季の恵みを移した糸は多彩。どの糸を合わせたらいいのか本当に分からなくて手が止まっていた時、少し外を散歩しておいでと言われた。

大きな日本家屋の工房の周りは田だけが広がっています。空は、夕暮れが近づいています。しばらく歩いていると、すーっと足下に冷たい空気が流れ、辺りは霧に包まれました。ただそれだけのできごとでした。それなのに、工房へ戻ると手はどんどん動きました。見た景色や感じた空気が、どの糸を選べばいいか教えてくれていました。そうそう、それでいいのよと微笑まれて。散歩がもっと好きになりました。

今日は家のまわりをゆっくり歩きました。桜の木の葉が少しずつ色づいていて、とても綺麗でした。とくに曇りの日は、ピィと晴れてる日よりも好き。空と木と葉が静かで落ち着きます。この景色も、いつか布に織りこまれる日があるのでしょう。

人の心はとても小さい。自然を取り込むよりも、自然の中に入っていたい。

最後はちょっと詩みたいに。